[東京 1日 ロイター] - 厚生労働省が不適切な調査を行ってきた毎月勤労統計で、適切処理して再集計したデータを基にロイターが試算したところ、2018年1月─11月の実質賃金の水準(定例給与)は、前年比マイナス0.4%だった。
同省が昨年までの不適切調査で公表してきた同マイナス0.1%から減少幅が拡大している。個人消費の拡大の起点となる実質賃金の下押しは、政府の政策判断や市場の見通しにも大きな影響を与える可能性が出てきている。
<実質賃金、定例給与では2年連続実質でマイナスの可能性>
「今回の再集計でそれほど大きな影響は受けておらず、これまでの賃金動向の判断に影響はない」──。西村康稔官房副長官は1日の会見で、前日に続いてこう強調した。
しかし同副長官が指摘した再集計とは18年1月に実施された、サンプル入れ替えの影響を勘案しない賃金の再集計値のみ。
サンプル入れ替えによる段差を取り除き、かつ同じ事業所で比較した実質賃金が公表されれば賃金の実態が把握しやすいと、この問題を追及して政府・与党側と対峙している野党側は指摘する。
複数の関係筋によると、厚労省は4日以降にこの数字を公表する見通しだ。
ロイターは、同省が公表し、データ入手が可能な「サンプル入れ替えを勘案しないベース」での実質賃金の再集計値を使用し試算を行った。給与実態を最も典型的に反映しているとエコノミストの多くが認識している「毎月受け取る定例給与」を対象に実質賃金をはじき出した。
その結果、18年1月─11月の実質賃金は前年同期比マイナス0.4%となった。同省が昨年まで公表していた値を基に試算した同マイナス0.1%と比較すると減少幅は拡大した。
17年の同マイナス0.1%からもさらに落ち込んでいることがわかった。
<低い賃上げ率、背景に日本経済への将来不安>
物価の伸びにさえ追い付けないような鈍い賃金の伸びは、毎年の賃上げが少ないことにも一因がありそうだ。
安倍晋三首相はこの問題を追及される度に、アベノミクスにより春闘でのベースアップが復活しボーナスも過去最高だったと強調している。
しかし、連合集計でみると最近の2%前後の賃上げ率のうち、定期昇給分を除く賃金底上げ分は18年春闘で0.5%程度。これは名目賃金であり、18年物価上昇(生鮮食品を除くベース)で0.9%の上昇を差し引くとマイナスとなる。
東京大学大学院の柳川範之教授はこうした状況について「本来、企業がベアをもっと上げていれば、将来の絵も変わっていたはずだ。所得と消費と企業部門の好循環が実現していたはず」とみている。
一方で「家計だけでなく企業も、将来不安が大きいことに問題がある。企業も賃上げにも慎重にならざるを得ない」と指摘する。企業を責めるより、社会全体が日本経済の先行き不安を感じる現状を改革に注力すべきとの見解を示した。
<政府は10月の増税判断には「無関係」との立場>
毎勤統計を信頼して賃金雇用情勢を分析してきたエコノミストからは「信頼性の高い賃金統計がなくなってしまったことが深刻な問題」(第一生命経済研究所・副主任エコノミスト、星野卓也氏)など、賃金動向の実体が把握できなくなったとの声は多い。
しかし、西村官房副長官と同様に、「これまでの政策判断に影響しなかった。所得に関する判断は、毎勤統計だけで行ってきたわけではない」と、ある経済官庁幹部は説明している。
ただ、政府の景気判断を行う「月例経済報告」では、雇用・所得環境の引用資料は主に毎勤統計を使用。時折、賃上げ率のグラフを付け足すなどしているだけだ。
過去2年間の実質賃金が伸びが鈍かったことが判明し、今年10月の消費税率引き上げの判断への影響も気になるところ。
だが、先の経済官庁幹部は増税の必要性について「財政資金が不足していることが最大のインセンティブだ。今年10月の消費増税は教育無償化や国土強靭化など、さまざまな政策の財源となっている」と指摘。増税判断に毎勤統計の問題が影響することはないと断言する。
予定通り増税が実施されれば、物価は少なくとも19年度に1.1%、20年度に1.5%上昇する(日銀見通し)。
ベアがそこまで届く経済環境にあるのか、消費は腰折れしないのか──。賃金の実態把握ができる統計の必要性が、一段と意識されることになりそうだ。
(中川泉 編集:田巻一彦)
(出典 news.nicovideo.jp)
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